FEATURE 07 長谷川昭雄と西山徹のWTAPS®対談

ここ数シーズン、WTAPS®のカタログやウェブに掲載されるビジュアルをディレクションしているスタイリストの長谷川昭雄氏。
その独自の視点で描き出すWTAPS®の世界観に、全幅の信頼を寄せるディレクターの西山徹。
二人がWTAPS®をテーマに対談した。

WTAPS®というブランドについてーー

長谷川(以下H)「僕の中では、テツさんそのものというイメージ。テツさんが潜在的に持っている幅の中でいつも違う展開を見せてくれる、本当に独特なブランドですよね」
西山(以下N)「そこはWTAPSの個性なのかもね。僕の中の影のような部分が染みてるのかもしれない」
H「それぞれのアイテムにキーワードみたいなものがあって、僕が理解できる範囲のキーワードもあれば、分からない範囲のキーワードも結構あるんです。自分で分かる範囲のものはそれなりに組めるんですが、分からない範囲のものは自分なりに組んでしまっているんです。でも、そうすることで逆に意外な効果が生まれてることがあるかもしれないですよね。というか、そう願いたいです(笑)。化学反応があるはずですし」
N「意外性ね。それこそがWTAPSが長谷川くんに求めるところだよね。コールアンドレスポンスというか、即興性というか。WTAPSが独自にやっていても限界があって、それ以上は拡がらない領域に誘い出してくれるというか。概念そのものを変える感じ。ただ無理やりではなく、掛け合いを感じるんだよね」
H「僕の仕事ではモデルの存在が重要で、WTAPSのように狭いようで幅のあるブランドにはモデルにも多様性があった方が良いと思うんです。同じ服でも着る人が違えば、全然見え方も変わってきますから。それと実際に人が着ることで、服はその人の力と絡み合って、架空のイメージが現実になるんです。たとえ、何だかよく分からない服でもモデルに着せるだけで、それなりに見えてしまったり。 ただ、服自体の背景にカルチャーが無ければ、イメージは現実されても匂いがしない。そういった「人が着ることで服のカルチャーが見えてくる」という化学反応みたいなものをWTAPSのビジュアルでは作りたいと思っています。でも、そもそもカルチャーに紐付いた服作りって誰にでもできるわけじゃないと思うんです。テツさんの、デザイナーだけどセレクターみたいな服作りだったり完成されたグラフィックがなかったら成り立たない独特なバランスがあるんだと思います」
N「自分が影響を受けてきたカルチャーに紐付いた服作りは、最も大切にしていることだから。だけど、それがストリートブランドっていう言葉の本来の由来なんだろうね」
H「しかも、その背景が色々あるのもWTAPSの特徴じゃないですか。スケートがあれば音楽もあって、音楽の中でもパンクだったりヒップホップだったり。僕自身は個々のカルチャーにあまり精通していませんが、ジェネレーション的に近いから肌感覚で分かる部分はあるんだと思います」

スタイリスト長谷川昭雄のこだわりーー

H「本音を言えば、どうしてこんなにWTAPSの仕事をオファーしてもらえるのか不思議に思ってるところがあります。本当に申し訳ないぐらい裏原宿のカルチャーを通ってなくて。スタイリストのアシスタントを始めたのが20歳ぐらいで、その頃は全然お金もないし、服を買う余裕が全くありませんでしたし、師匠はプラダとかのハイファッションに傾倒している時代だったから、その頃のストリートウェアの細かいトレンドが、僕はごっそり抜けてるんです。WTAPSがスタートしたのが、その頃だと思うんですけど」
H「96年とか?」
H「そうです。だから当時のことを知らない僕に仕事を依頼してもらっちゃっていいのかなぁって」
N「それはもう全然(問題ない)。いつも言う話だけど、ポパイのリニューアルしたときのビジュアル(2012年)が、メガネの子が何の変哲もないビーニーを被ったポスターだったけど、あの普通のビーニーが良いってことを知ってる人が作ってるのを認識できる写真で。それが自分に響いたんだよ。ファッションにはこういう見せ方があるんだなって。一見、何でもないアイテムがフィーチャーされた写真だけど、構図やトリミングも計算されていて。あれがきっかけだった」
H「そんな細かいところまで見てもらえて嬉しいです」
N「もうすぐ公開される、2020年春夏コレクションのMILLのビジュアルもまさに同じで、誰が見ても普遍的なスニーカーとMILLのセットアップが完璧なんだよね。着用感からにじみ出る空気作りも含めて」
H「やっぱりディテールって大事だなと最近改めて思うんです。洋服の組み合わせも大切だけど、その人に合ったシワとかちょっとしたニュアンスを表現することで、カルチャーとか背景を超えて、服も人も魅力的に見えるんじゃないかと。特にMILLは、シンプルな服だからこそ、そのものが持つ味が大事ですよね」
N「たしかに、その通りだね」
H「カッコいい男の子に、テツさんのカルチャーを持ったシンプルな服とそこにできるシワを表現することで、WTAPSはより魅力的に見えるんじゃないかって思うんです。だから、何でもないシャツや軍パンであることがMILLの良さだし、それを如何に良く見せられるかみたいなところが、僕の重要な仕事なんだと思っています」

WTAPSの軍パンについてーー

H「何でもないけどかっこいい軍パンって、ありそうで無いんですよね。その点、WTAPSのMILLは本当によく出来ています。以前、テツさんが言っていた通り、マニア的な価値のある軍パンを履きたいわけじゃなく、自分が若い頃に好きだった軍パンの素材感やディテールを追求しているのが、WTAPSの魅力なのかなと思います」
N「オリジナルに忠実な復刻版には復刻版の良さがあるけどね、自分がそれを作っても意味がない。だけど、着用したときの風合いにはこだわる。子供の頃に見て影響を受けた服は、特に」
H「カーゴポケットの膨らんだ感じとか、すごく好きです」
N「テントみたいな感じ」
H「デザイナーが作る服で、こういう軍パンってなかなか無いと思います。老舗のアメカジ屋で売ってたような軍パンみたいな。やっぱりメンズの服はそういうものが一番しっくり来るような気が……」
N「そうなんだよね。年取ったからなぁと思わなくもないけど。自分の場合はミリタリーマニアだったわけじゃないので、ヴィンテージに忠実なものを作ることに必然性を感じないというのが本音」
H「ヴィンテージのディテールをそのままにするよりは、組み合わせを変えて編集し直す方が、テツさんぽい気がします」
N「そう、何を求められているかはいつも考えてる。特にディテールとか、今の時代にこのディテール要るかなぁって」
H「逆にこれだけは変わらないみたいなものはありますか?」
N「この形にはこの素材がいいっていうのは絶対に変わらない。M-65だったらバックサテンだし、ジャングルトラウザースだったらリップストップがカッコいい。あくまで、自分の中では、だけど」
H「僕はリップストップがすごく好きで、時代的にもリップストップが主流だったからかなぁ。ところでテツさんは、いまの軍モノには興味ないんですか?」
N「あんまり興味ないなぁ。ただ、現行のものを知らないだけで、知ってみたら興味が湧いてくるかもしれないけど」
H「僕も詳しくはないですが、最近の軍モノは昔のものと比べて、あんまりカッコよくないかも。ストレッチの利いたハイテク素材とか、機能的なのは分かるんですけど」
N「当時はリップストップも速乾性とか破れないとか、機能的だって言われてたから」
H「それにしても軍パンのポケットとかフラップとか複雑だから、作るのも難しそうですね」
N「うん、難しい。シーチングっていう裏地とかに使う生地でBDUシャツを自分たちで作ったことがあるんだけど、超大変で。手間が半端じゃなくて面倒くさい。それでも縫製の効率化を考慮して設計されてるはずなんだけど。これで効率的って言えるのかなぁって」
H「実際、製品でもギャザーみたいなのを入れた縫製とか大変だろうなぁって。でも、そういうディテールも含めて、適度にケアされてるから面白いんでしょうね、WTAPSの場合は」
N「ミルスペックならではの粗悪なディテールをそのまま踏襲したり、あとはやっぱり着用時の風合いかなぁ、大切なのは」

WTAPSのデザインについてーー

H「WTAPSで以前使用していた茶色の封筒? ああいう洋服以外のものもテツさんが自分でデザインしてるんですか?」
N「内側がコーティングされてるクラフト紙の袋ね。あれを作ったのは随分昔だけど、自分でデザインしたよ。そういう作業が好きなんだよね」
H「すごいですね。普通のブランドだと洋服作るのに精一杯で、ああいうパッケージとかはどうしても適当になっちゃいそうだけど。どうりで何となくアメリカのレシートとか紙袋にあるようなディテールだなぁと思ってました。あの袋は丈夫で便利だから捨てられないんです」
N「服以外のものにも注目してくれて、フィードバックもらえると嬉しい」
H「それと、最近リニューアルしたWTAPSのネーム。あれはどうして変えたんですか?」
N「ネームはWTAPSがスタートした当初から常にこだわってきた部分。年末の大掃除でも、96年当時のネームからゴッソリ年代順にかなりの種類が出てきたよ。元々、ネームをグラフィックとして存在させてたからね。ただ、最近は何となく似たようなデザインのネームを見掛けるようになってきたので、新しく分かり易く変えることにしたんだよね。だから今までほとんど使ったことのなかった<WTAPS®>のみを表記するシンプルなデザインになってる」
H「ネームって大事ですよね。どんなネームが付いてるかで服の印象も変わりますから。どんなに服がカッコよくても、ネームのデザインが残念だとガッカリします」
N「ネームが変わる少し前からシルエットも変わり始めて。2016年春夏のSTARTERのシリーズ辺りだから、ちょうど長谷川くんがビジュアルを担当してくれるようになった頃だよね。WTAPSにとっても節目の時期に、長谷川くんにも参加してもらえて良かったなぁと思う。そういう必然のタイミングだったのかもね、いま思い返してみれば……」
長谷川昭雄(はせがわあきお) 1975年生まれ。スタイリスト、ファッションディレクター。大学在学中、喜多尾祥之氏に師事しアシスタントに。ライター修行を経て、スタイリストとして独立。2007年『MONOCLE』(英国) の創刊に携わり、2015年~16年はファッションディレクターに。2012年、雑誌『POPEYE』のリニューアルに携わり、2018年までファッションディレクターを務める。現在はウェブマガジン『フイナム』と協業するファッションメディア『AH.H』をディレクションする他、雑誌『UOMO』にてファッションコラムを寄稿。ファッションブランドのコンサルティングやディレクションも手掛ける。