FEATURE 02 あらためて、自分の好きなものと向き合う

軍ものといえば6ポケの軍パンでした。これに白のポロシャツや紺のニットをよく合わせていたのを覚えています。

あるとき、過去に作ってきた服を眺めていたら、’96年の立ち上げ当初から、そういえばずっと作っているのだなと気がついたのがジャングルシャツでした。
若い頃にぼんやりと観ていたアメリカ映画のなかでも、『E.T』のBDUシャツや、『クレイマー・クレイマー』『セルピコ』『タクシードライバー』のM-65なんていうのは、軍の払い下げ品が身近にあるアメリカならではの日常であり、大人がはくようなパンツを、子供たちが普通にはいているような文化の違いも感じられて、とても憧れたものです。

着方のサイズは時代によって細くなったり、太くなったり、あるいは切ってみたりと、さまざまに変わるのだと思いますが、あらためてもう一度しっかりと好きなものと向き合い、こうと決めたサイズで作ってみようと考えたのがこの『MILL』です。
もうひとつ、若い頃に気になっていたことを、丁寧に作り変えてみようと思いました。若いときは体がまだできていなく細いので、アメリカの軍ものを何も考えずに着てしまうと、どうにもイメージと異なることが多かったのです。着ているときに、はいているときにハリがあり立体的なシルエットが出るように。突き詰めて考えると、憧れていたのは、ディテールではなく、シルエットだったのだなと思いました。上物なら、体が華奢でも服の起伏が出るように。パンツなら、裾のたまりが構築的になるように。

軍ものは元来、あらゆる人種とサイズを許容できるようなものですので、誰が着ても個性が出るし、逆にいうと、そこから手を加えていけばいくほどに、着る人が限られてしまいます。『MILL』では前者を基本としました。

もう20数年以上も、形も素材も実験し続けてきたわけですが、最終的にこの6型をまずは作り続けてみようと思いました。シルエットは変えるつもりはないのですが、シーズンごとに生地のオリーブドラブの色味は変わっています。大量生産されているアメリカの軍もののロットブレの感じとでもいうのでしょうか。もうそれくらいでいいのかなと思っています。

MILL-65 / JACKET. NYCO. SATIN

自分なりにどう着るかを把握していれば、個性的で強い印象を与えてくれるのがM-65というジャケットです。ディテールの多さも特徴的で、特にエポーレットなんて、それがなければ肩の張りもどことなく漂う将軍感もなくなり、着やすいんでは?と思ったりもしましたが、このエポーレットが付いてないとM-65ではないのです。ですので、肩の落ち感には気を遣い、どんな人が着ても雰囲気の出るシルエットになるように、トロみはあるけどハリのあるコットンナイロンのバックサテン生地を使うことにしてみました。オリーブドラブだけでなくブラックも作っているのですが、’90年代のニューヨークのヒップホップの人たちが着ていたのを思い出します。NasやFat JoeなどはブラックのM-65をよく着ていましたよね。

MILL-65 / TROUSERS. NYCO. SATIN

寒冷地用のオーバーパンツがベースなので、よりワイドなシルエットになっているのがM-65カーゴパンツです。ジャケットと同じ、トロみのあるコットンナイロンのバックサテン地を使っていて、膝の2本のタックでガサガサとしたシワができ、いい具合の立体感となるのです。カーゴパンツに関しては、’90年代のニューヨークのスケーターたちがはいていた印象です。残念ながら映画『KIDS』には何の影響も受けていないのですが、その当時のニューヨークでこういったカーゴパンツをはきながら街を滑っているのが都会的な感じがしたのです。決して派手ではなく、ヒップホップを聞きながら日常的な服装で滑る。GAPのアノラックにNIKEを履いて、それだけでよかったのだと思います。

MILL JUNGLE LS / SHIRT. NYCO. RIPSTOP

WTAPSを始めた頃から作り続けているのがジャングルシャツです。モディファイしてどこかに手を加えたい、これは他にはないだろうと、リップストップ生地を選んで作りました。初期のモデルはカフをリブにしたものも。20数年を経て、今作っているのは、オリジナルの原型に近いのもので、ハリ感を意識して作ったコットンナイロンのリップストップ生地を使っています。主流は綿糸だけで作るリップストップかもしれませんが、体が華奢でも生地の起伏が出てちゃんと着られるように、ナイロンを混紡した素材を作りました。カフもリブにはせずに、調整すれば袖にも自然なタックが入るように。着ているときにいいシルエットが出るように。そんな一着にたどり着けたのも、飽きずにいろいろと作り続けてきたおかげなのかもしれません。

MILL JUNGLE / TROUSERS. NYCO. RIPSTOP

AIR JORDAN1に6ポケットパンツ。VANSのHI-TOPにも6ポケットパンツ。昔から、こう裾をくしゅくしゅさせてはくのがなんだか格好よくて。パンツのはき方ひとつでもアレンジしていた時代で、わざと大きめだったり、裾もギュッと絞ってはいてみたり、その上にソックスをかぶせてみたりとよくしていたものです。カーゴポケットに物を入れたときに、いい具合に膨らむのもいいですよね。ジャングルシャツと共地のリップストップ生地を使って、その膨らみ方も気にしてみました。他のボタンもそうなのですが、この『MILL』ではインラインのオリジナルボタンを裏返して使うようにしています。ちょっとしたことですが、匿名性といいますか、ユニフォーム的な意味合いをより出してみたかったのです。

MILL BUDS LS / SHIRT. COTTON. SATIN

ジャングルシャツがギアだとしたら、ミリタリーシャツはライフスタイルとでもいうのでしょうか。ライフスタイル感のある軍ものというのも不思議ですが、そうとは見えない着方をしたほうが面白いときもあるのだと思います。
この生地は厚みもあり、ガサガサした風合いが特徴なので、立体的なシワも目立ち易いんです。でも、そのシワがあってこその普段着となるのだと思います。1950年代あたりのコットンサテンシャツをベースに、その色褪せていた印象を、硫化染め加工で表現しました。らしくシンプルなシングルステッチで縫製しています。ミリタリーものだなんて思わずに、オリーブドラブの色をした、ちょっとがっしりとしたシャツとして着るくらいがちょうどいいのだと思います。

MILL BUDS / TROUSERS. COTTON. SATIN

ミリタリーシャツと同様のコシがあり、いいシルエットが出せるようなコットンバックサテンを使ったベイカーパンツです。ベイカーパンツというのは、腰の位置によってはきかたも見え方も変わります。ヒップが大きい人はこのバックポケットが似合いやすいのですが、ヒップが大きくなくても、自分のはく位置を見つけられたら、このバックポケットの立体感で、いいシルエットではけるのだと思います。ジャングルパンツの前身であり、訓練生がはいていた体操着みたいなものですし、ワタリが広いので動きやすい。このパンツもギアではなく、日々の普通の生活に。たとえば、VANSのERAのネイビーに、白いシャツなど合わせていたら、ただのトラウザーズくらいにしか見えませんしね。

Interview&Edit : TAMIO OGASAWARA